「好き」とどう付き合うか?
好きなものを語ろうとしたときに「どうしてそこまで好きなの?」と聞かれ、うまく答えられずに困った経験はありませんか?
私は幸い、「好き」を言えないもどかしさをあまり感じてきませんでした。
むしろ「好きとは何か」を自分なりに考え続けてきたタイプで、友人や家族に伝わるよう工夫して話してきました。
ただ一方で、「好き」という気持ちは一過性。
記憶の中で「好き」が「好きだったこと」になり、冷蔵庫の中にしまいぱなしの野菜のように、時間とともに色あせてしまうことに寂しさを覚えることがありました。
こればかりは仕方ありません。人は変化がなければ飽きてしまう生き物だからです。
とはいえ、人生を充実させるためには「好きでいること」は欠かせない要素です。
では、どうすれば人生を通して「好き」を見つけ続けられるのか?
三宅香帆さんの『「好き」を言語化する技術』は、その問いにひとつの答えをくれました。
本書から学んだ発信の技術
本書のメッセージはシンプルです。
- 「好き」を言葉にすることで、自分の中に確かな「好き」を保存できる
- 言語化とは語彙を増やすことではなく、細分化すること
- 人にものを伝えるには、考え方・伝え方のコツがある
「好き」を言葉にする技術にとどまらず、YouTubeでの配信、ビジネスのプレゼン、SNSでの発信など、あらゆるアウトプットに役立つ考え方が示されていました。
過去の「好き」を分解して見えたこと
私自身、子どもの頃に夢中になった「ムシキング」と、今も続けている「卓球」に共通点があることに気づきました。
ムシキングの思い出
土曜日、イトーヨーカドーで習い事を終えたあと。
父と一緒に100円玉を握りしめてゲーセンに走り、自分の番を待つあのワクワク感。
カードが排出口から出てくる瞬間の高揚。
対戦中に画面の虫たちが躍動し、全身全霊でグー・チョキ・パーのボタンを押していたあの時間。
あの体験を分解すると、こんな要素が見えてきました。
- どんなカードが出るか分からない → ランダム性
- じゃんけんで勝敗が決まるシンプルさ → 明確なルールと勝ち負け
- 虫カードを集める楽しさ → コレクター心
卓球に通じる要素
今も趣味として熱中している卓球にも、同じ構造があります。
- 対戦相手ごとに異なる返球 → ランダム性
- 3セット先取というシンプルなルール → 明確なルールと勝ち負け
- ラバーやラケットを揃える楽しみ → コレクター心
「なるほど、自分はこういう要素に心を動かされるタイプなんだ」と整理できたのは大きな発見でした。
この記事を読んでくださっているあなたもぜひ、かつて熱中したものを思い返してみてください。
その要素を抽象化すれば、次に夢中になれる対象のヒントが見えてくるはずです。
好きを「人に届く言葉」に変えるコツ
本書では、他人に響く話の条件も紹介されています。
他人に響く話は「ものすごく共感できる話」か「(興味のある範囲の中で)新しい情報」。
たとえば恋愛ソング。
歌詞は「あの時こりんに出会って」とは書きません。
「君に出会って」と抽象的に描くからこそ、誰もが自分の体験に重ねられる=共感です。
一方で、サウナ未経験の人に「新しいサウナができて水風呂が12度で…」と話しても、当然響きません。
興味の外にある情報はただの雑音になってしまうのです。
自分の「好き」を人に語るときは、この二軸を意識するだけで、伝わり方がぐっと変わります。
書くときの基本は「誰に」「何を」
著者が繰り返し強調していたのが、文章の大前提です。
- 読者を決める
- 伝えたいポイントを決める
たとえば、仕事のメールであれば:
- 読者:部署の数名
- 伝えたいポイント:〇〇の業務が終わったという結果報告
このように自然と整理できています。
しかし、SNSやブログは不特定多数に発信されるため、読者を意識せずに書いてしまいがちです。
結果、誰にも刺さらない文章になってしまいます。
この記事ではあえて読者を想定しました。
- 本を読みたいけど時間がない人
- 「好き」を通じて人生を充実させたい人
誰に向けて書くかを明確にしただけで、表現したいことがぐっと鮮明になりました。
まとめ ― 今日からできる「好きの言語化」
『「好き」を言語化する技術』は、推し活のためのハウツーを超えて、
- 自分の「好き」を言語化する方法
- 人に届く言葉に変える視点
- 未来の「好き」を見つける再現性
を与えてくれる一冊でした。
読後におすすめしたいのが、この3ステップです。
「好きの言語化」ワーク
- 今まで夢中になったものを2つ書き出す
- それぞれ「なぜ好きか」を3要素に分解する
- 共通するキーワードを探す
こうして抽象化したキーワードが、自分の「これからの好き」を見つける羅針盤になります。
もし「好きが色あせてしまうのが寂しい」と感じたことがある方、ぜひこの本を手に取ってみてください。

📚 著者について
三宅香帆(みやけ・かほ)
文芸評論家。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。著書に『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』『妄想とツッコミでよむ万葉集』など。現代における「読むこと・書くこと」をテーマに幅広く活動中。
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